【提言】京都市・文化財の防火対策について

私自身,市会議員に当選させていただく前は,
文化財保存修復師として10年間文化財に携わっていました。
その経験も踏まえて,議会においても文化財の防火対策の強化を求めました。

世界中が悲しんだ、火災による文化財の焼失

◆ノートルダム大聖堂、首里城の事例

2019年4月にフランス・パリのノートルダム大聖堂において発生した火災,同年10月に発生した沖縄の首里城での火災など,世界的に有名な文化遺産が焼失する大変痛ましい出来事が連続して発生したことは、ご記憶に新しい方も多くいらっしゃるかと思います。

ノートルダム大聖堂の内部には火災報知機や消火器はありましたが,スプリンクラーなど自動消火設備はありませんでした。
首里城に関しても,火災で焼失した建物は復元されたものであったため,消火設備が不十分であったことが原因の一つであると考えられます。

◆日本の文化財にとっては、特に死活問題

京都市において,これらの火災は決して他人ごとではありません。
京都市内には数多くの文化財建造物が所在しており、これまでにも火災による貴重な文化財の被害が少なからず発生しています。
日本の文化財は,可燃性の高い木や紙を材質とするものが多く,火災などで一度失われると取り返しがつきません。
そのため、文化財への防火対策は重要な課題なのです。
また、保存の観点のみならず、観光などで文化財を見学される方々の安全にもつながる重要な課題であると考えます。

文化庁による防火設備の整備状況調査

◆問題性が指摘された京都市

令和元年4月に文化財保護法が改正されたことに伴い、文化庁は、文化財所有者に対して,防火設備の整備状況等のアンケート調査を実施しました。

この調査の結果、京都市の防火対策の状況は、
国宝の場合,消火栓設備の設置率は100パーセントでしたが,
消火栓設備177件中・38件の21.5%において
<設置後未改修による老朽化により問題あり>と判明
重要文化財の場合、消火栓設備の設置率は87.7パーセントで、
1,143件中・155件の13.6%で
<未改修による老朽化により問題あり>
と判明しています。

◆市として、防災対策に補助を!

また,今回の調査結果を受けて,文化庁では,文化財の火災リスクなどの把握と,それに応じた防火設備の整備に関する新たなガイドラインを策定しました。
しかしながら、文化財の耐震に関する指針は平成11年度から施行されていますが、実際のところは耐震化は遅々として進んでいないのが現状。
よって今回も、新たなガイドラインは策定されたものの、防火設備の整備が迅速に進むかどうかは懸念されるところです。

この点に関しては,一定の補助の充実も必要であると考えます。
以前から京都府では、府指定文化財への消火器の設置に関して補助の対象となっていましたが、京都市では、市指定文化財への消火器の設置に関して補助の対象外となっています。
今回の新たなガイドライン制定を機に,京都市でも消火器の設置を含め,防災対策の補助を今後も継続的に行っていくべきであると考えます。

 

スプリンクラー設置の必要性

◆低い設置率とスプリンクラーのリスク

また文化庁はこの新たなガイドラインの中で、スプリンクラーの設置を勧める通知を出しています。
調査によれば,全国の重要文化財の施設でスプリンクラーを設置しているのは,4,543件のうちのわずか66件。全体の1.5パーセントにも満たない数です。

なぜここまで設置率が低いのか。
それは,費用面の問題もありますが,スプリンクラーは配水管を建物内部に張り巡らすため,文化財自体を傷つけてしまうリスクがあることや,機器の誤作動により,万が一,火災が起きていないのに作動すれば,貴重な文化財が水によって損害を受ける恐れがあるからです。
しかし,ノートルダム大聖堂,首里城は共にスプリンクラーの設備がなかったため,ここまでの被害になってしまったことも事実なのです。

◆姫路城・名古屋城も設置。二条城にも!

日本で初めて世界文化遺産に登録された国宝・姫路城では,計1,078個のスプリンクラーが設置されています。
また名古屋市においても,首里城の火災を受け,昨年完成した名古屋城本丸御殿と木造復元を目指す新天守閣に,それぞれスプリンクラーを設置する方針を発表しました。

京都市にも,世界遺産であり国宝でもある二条城があります。
姫路城では当初反対の声もあったそうですが,一度消失してしまったら取り返しがつかないとして設置に踏み切ったといいます。
名古屋城でも,人命と同時に建造物などの文化財を守る観点も重要だと考え,今回設置の方針に踏み切りました。

もちろん元の姿を残すことは大切ですが,初期消火装置として効果のあるスプリンクラーの存在は重要です。
文化庁が移転してくる京都においては,文化財の防火対策は他の都市の指針となるべきだと考えますし,一定の態度を示すべき時期だと思います。
また,スプリンクラーだけでなく,放火などの防犯にも効果のある監視カメラの増設による監視強化など、設備の一層の充実も重要であると考えます。

 

<令和2年2月28日・代表質問にて提言>